「コーチング」と聞くと、スポーツの指導を思い浮かべる方も多いでしょう。ですが実際のコーチングは“教える”のではなく、“対話を通じて相手の可能性を引き出す”コミュニケーションの技術です。
ビジネスでよく使われますが、家族旅行の計画や旅先でのちょっとしたすれ違いにも応用できます。本記事ではコーチングの定義や効果、ティーチングとの違い、代表的な「GROWモデル」、そして傾聴・質問・承認の3つの基本スキルを解説。旅行中の“ケンカ予防”の視点も交えながら紹介していきます。
1. コーチングとは?定義と基本の考え方
コーチングとは「相手の主体性を引き出すための対話」や「自発的な行動を促すコミュニケーション」のことを指します。
厚生労働省の「こころの耳」では“相手の持つ力を信じて引き出す方法”として紹介され、コーチ・エィでも「問いかけを通じて自発性を引き出すプロセス」と定義されています。
つまり、コーチングは「教える」や「指示する」ものではなく、問いかけや傾聴を通じて相手自身が考え、行動を選べるようにするための仕組みです。
たとえば旅行に当てはめてみると──
「どこに行きたい?」「今回の旅で一番やりたいことは?」と問いかけ、家族それぞれの「やりたい」を拾っていくこと。これがまさに“旅行版コーチング”の第一歩です。

指示するんじゃなくて、“聞いてみる”のがコーチングの始まりなんだよ。
旅行も『パパの計画通り!』じゃなくて、みんなの希望を聞いておくとケンカが減るんだ。
2. コーチングの効果:なぜ職場だけでなく家庭にも効くのか
コーチングはもともと職場の人材開発やマネジメントで使われてきましたが、その効果は家庭や旅行などの日常生活にも応用できます。代表的な効果を見ていきましょう。
(1)自己決定感の向上
問いかけによって「自分で選んだ!」という感覚が生まれると、行動への納得感が高まります。
旅行計画でも「子どもが自分で選んだ観光地」には文句を言いにくくなりますよね。
(2)関係性の質改善
相手の話を傾聴(良く聴く)するだけで「大事にされている」という感覚が育ちます。これは夫婦関係にもそのまま当てはまります。旅行中のイライラも「聞いてもらえた」という安心感で軽減できます。
(3)行動継続を促す
人は自分で考えて決めたことの方が継続しやすいもの。旅行でも「自分で決めた役割(地図係・カメラ係など)」を持つと、当日のチームワークがぐっと良くなります。

“自分で決めた”って気持ちが大事なんだ。
旅行でも『僕がカメラマン!』って言ったら、最後まで頑張れるんだよ。
3. ティーチング/カウンセリング/コンサルとの違い
「コーチングって、結局“教えること”なんじゃないの?」
そんなふうに思う方も多いかもしれません。
でも実は、コーチングは「答えを教える」のではなく、「相手の中にある答えを引き出す」ことを大切にしています。
- ティーチング(Teaching):先生が答えを持っていて、それを伝える
- カウンセリング(Counseling):心のケアや過去の悩みに寄り添う
- コンサルティング(Consulting):専門家が解決策を提案する
- コーチング(Coaching):相手の中にある可能性を質問で引き出す
旅行でたとえると、
- ティーチング → 親が「この道を行きなさい」と指示する
- カウンセリング → 「疲れてるよね、大丈夫?」と気持ちを癒す
- コンサル → 「このプランなら効率的だよ」と旅程を組む
- コーチング → 「どっちに行きたい?」と子どもに選択を委ねる
つまり、コーチングは「自分で考え、選ぶ力を育てる」関わり方なんです。

ボクも旅行で“こっち行こうよ!”って言いたくなるけど、相手の“どうしたい?”を聴いてあげるのも大事なんだね
4. 代表フレーム:GROWモデルの使い方
コーチングの代表的なフレームが GROWモデル で、以下の4つの頭文字を取ったものです。
これは、会話を整理して「目的達成」をサポートするシンプルな流れ。
- G(Goal:目的) … どんなゴールを目指したい?
- R(Reality:現状) … 今はどんな状況にある?
- O(Options:選択肢) … 他にどんな方法がある?
- W(Will:意思・次の一歩) … 最初にできる小さな一歩は?
旅行にあてはめると、子どもや家族との会話にも応用できます。
旅行用質問テンプレ(各ステップ例)
- 今日の旅でいちばん楽しみにしていることは?
- どんな一日になったら最高?
- 今の気分はどう?
- 疲れている? それともまだ元気?
- この後は動物園と水族館、どっちがいい?
- 他にやりたいこと、ある?
- じゃあ、まずはどっちに行こうか?
- 最初の一歩として、何をしたい?

“今日はどこ行きたい?”って聞かれると、聞かれた側もうれしくてワクワクするね。
5. 基本スキル① 傾聴:相手の“内側の声”を出やすくする
コーチングの土台は「聴くこと」です。
でもここでいう「聴く」は、単に言葉を耳に入れるだけではありません。
相手の“内側の声”——つまり気持ちや本音が自然と出てくるように、安心できる聴き方が大切になります。
具体的には、こんなスキルが役立ちます。
- ミラーリング:相手の言葉をそのまま軽く返す(例:「疲れたんだね」)
- 言い換え:内容を整理して伝え返す(例:「つまり、楽しみだけど不安もあるってことかな?」)
- 短いあいづち:「うん」「なるほど」などで安心感を与える
- 沈黙を怖がらない:考える余白を相手に渡す
旅行の場面に置きかえると、渋滞中に子どもが「まだ着かないの?」と不満を漏らすとき。
「静かにしなさい」と抑えるのではなく、
「退屈だよね」「早く遊びたいんだね」と受け止めるだけで、空気は驚くほど和らぎます。
ただし注意点もあります。
感情に寄り添う質問を連発したり、「本当はこう思ってるんでしょ?」と誘導すると逆効果。
「ただ聴く」ことに徹することが、相手の安心感を育てます。

“聞く”より“聴く”だよ! 耳と心をセットで使うんだね。
くれぐれもスマホを触りながら聞かないように。
6. 基本スキル② 質問:開かれた問いで選択肢を広げる
聴くことに続いて大事なのが「質問」です。
ただし、質問なら何でも良いわけではありません。
コーチングでは、答えが「はい/いいえ」で終わる質問より、
オープンクエスチョン(答えを広げられる問い)が有効です。
特に What や How で始まる質問は相手の視点を動かしやすいのが特徴。
逆に When や Where など具体的すぎる質問は、選択肢を狭めてしまうこともあります。
- 「今日、何ができたら楽しい一日になりそう?」
- 「そのために今できることはあるかな?」
たった一言の問いが、子どもの「じゃあ次はぼくが地図を見たい!」という主体的な行動につながることもあります。
問いは、指示を減らし、相手の選択肢を広げる魔法のツールなのです。

“正解を当てる質問”じゃなくて、“考えたくなる質問”がいいんだね
7. 基本スキル③ 承認:事実ベースで小さな前進を見つける
承認は「相手の存在そのものを褒める」ことではなく、「具体的な行動の事実を拾い上げる」ことです。
「えらいね」「さすがだね」といった漠然とした言葉では、相手にとって実感が湧きにくいもの。
それよりも、「時間どおりに集合できたね」「荷物を率先して持ってくれたね」と、行動にフォーカスした承認を積み重ねることが効果的です。
承認は相手の“自己効力感”を育て、次の行動意欲につながります。
とくに旅行の場面では、ちょっとした一歩を見逃さず、その場でフィードバックすることが大切です。

ぼくは“行動の写真家”!みんなのがんばりを、その場ですぐにパシャっと言葉に表すよう心掛けているんだ
8. 家族旅行での実践ミニワーク(計画〜当日)
ここまで紹介した「傾聴」「質問」「承認」を、家族旅行にどう活かすか。
実際の流れに合わせて、家族でできるミニワークを紹介します。
事前:家族GROWミーティング
旅行前の夜ごはんやリビングで10分。全員が参加できる場をつくります。
- Goal(目的)
「今回の旅行で楽しみたいこと」を、全員が一言ずつ発表。
例:「温泉でのんびりしたい」「海で遊びたい」「美味しいものを食べたい」
👉 ここでは否定しない。「いいね」「それも旅行っぽいね」と承認を添える。 - Reality(現実)
「絶対外せない条件」や「これはNG」を整理。
例:「2泊まで」「車酔いしやすいから長距離は避けたい」
👉 “質問攻め”ではなく、「他に大事な条件ある?」と1問ずつ丁寧に。 - Options(選択肢)
いくつかのプランを出す。
例:「温泉+グルメ」「海+体験アクティビティ」などを並べ、
「この中で気になるのどれ?」と投げかける。 - Will(意思決定)
「今回はこれにしよう」と合意をとる。
👉 ここで沈黙が出てもOK。焦らず待つことが信頼につながります。
移動中:ミニ質問ワーク
渋滞や移動時間が長いときに使える小ワーク。
「今日一番楽しみにしてることは?」
「帰ったら友達にどこを話したい?」

子どもが答えたら「それいいね」「お母さんも同じ気持ち」と事実承認で返すんだ
当日:承認シェア
夜の宿や帰りの車で5分。
「今日一番よかったこと」を一人ずつシェア。
- 子どもが「海で魚を見れた」と言ったら、「本当に楽しそうだったね」と承認。
- 大人が「運転疲れた」と言えば「長時間ありがとう、助かった」と感謝を承認。

承認は“お世辞”ではなく、「事実に基づく短い言葉」を返すのがポイント
この一連のミニワークを通じて、家族旅行は「行って終わり」ではなく、対話の場そのものがイベントになります。
9. よくある勘違いと失敗回避
コーチングを家庭に取り入れるとき、つい陥りがちな“落とし穴”があります。ここを避けるだけで、驚くほどスムーズになります。
- 質問攻めで尋問になる
「なんで?どうして?本当にそう思うの?」と畳みかけると、子どもや配偶者は“追い詰められた”気持ちに。会話が逆効果になってしまいます。 - 承認が“お世辞”になる
「さすがだね!」「天才じゃん!」など人格に対する抽象的な褒め言葉ばかりだと、相手は“適当に言ってるだけ”と感じてしまうことも。 - GROWが“説明会”になる
親やリーダー役が熱心に語りすぎて、“結局全部決まってた”という形に。主体性がしぼんでしまいます。
ではどうすればいいのか?対策はシンプルに 4つの原則 です。
- 要約する:「つまりこういうこと?」と整理して返す
- 沈黙を待つ:すぐ埋めずに、考える時間を贈る
- 1問1テーマ:一度に複数の問いを投げない
- 事実承認:「時間どおり集合できたね」「ありがとう、助かったよ」と具体行動をすぐ言葉に

“褒める”って実はけっこうむずかしい。
お世辞じゃなくて事実を言うほうが、逆に自然であったかくなるね。
10. まとめ:コーチングは“家庭の合意形成ツール”
こ最初に「コーチングはスポーツ指導ではなく、対話を通じて可能性を引き出す技術」とお伝えしました。
その本質は、家庭でもしっかり活きます。
- 「傾聴」で気持ちを受けとめ合い、
- 「質問」で主体性を引き出し、
- 「承認」で前向きな雰囲気を育てる。
この3つを旅行計画や道中に取り入れれば、ケンカの火種は議論に変わり、議論はやがて合意へとつながります。
つまり、コーチングは家庭における“合意形成のツール”。
非日常の旅行を「学びと成長の場」に変え、そこでの“いい時間”は、やがて家族の“いい思い出”として積み重なっていくのです。

旅行での“いい時間”は、あとで家族の“いい思い出”になるんだなあ
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